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僕の戦争/三宿小学校の学童疎開[版元絶版]

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川原芳子著・絵の「僕の戦争」と、川原基尚著の「三宿小学校の学童疎開」の二編を収録。両編とも戦時中、東京都世田谷区立三宿小学校に通っていた基尚少年の日常生活と、長野県東筑摩郡山辺村湯の原温泉(現・松本市美ケ原温泉)と伊那で過ごした疎開生活を綴る。

著者 川原基尚・川原芳子
出版年月日 2023年1月15日
仕様 四六判・上製本(ハードカバー)
頁数 128頁(本文)

川原基尚●かわはら・もとなお
1933年 神奈川県川崎市生まれ。
1952年 東京都立青山高校卒業。
1954年 朝日新聞社東京本社入社。複数の職場を歴任。
1992年 新聞輸送出向、代表取締役社長。
1993年 朝日新聞社東京本社退職。
1998年 新聞輸送初代代表取締役社長退任。
2002年 同社のすべての役職を退任。
2022年 8月20日死去。享年90。
趣味は登山、渓流釣り。

川原芳子●かわはら・よしこ
1944年 神奈川県横浜市生まれ。
1963年 神奈川県立横浜平沼高校卒業。
1969年 人形劇団ひとみ座入団、企画制作を担当。
1977年 セキヤクリエイティブ代表取締役社長。イベントの企画制作を担当。
2004年 同社退社。
趣味は狂言(和泉流)、園芸。

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疎開先の自然が伝授した共生の極意(ユニコの杜管理人)

本書の著者である川原基尚は1933年生まれ。満洲国が国際的に認められず日本が国際連盟を脱退した年である。基尚が8歳のとき、日本はハワイ真珠湾に奇襲攻撃を加えてアメリカに宣戦布告。以降、戦線は拡大の一途をたどり、日本は大きな犠牲を払うことになった。基尚は自分の意思とはまったく関係なく戦争を隣り合わせにして育ってきたのである。
本書収録の「僕の戦争」「三宿小学校の学童疎開」はともに川原基尚の戦時下における少年期の記憶と長野県への集団疎開の体験をもとにしている。

「僕の戦争」は基尚の妻・芳子による童話風の読み物。夫・基尚から聞き取った実話を独自の視点で記していく。挿し絵も芳子自身が描いたものだが、当時の少年少女たちの真っ直ぐな心を滲ませた絵柄は、本から子供たちが飛び出してくるような躍動感にあふれている。川原芳子は1960年代に当時の子供たちを魅了したNHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」を制作していた人形劇団ひとみ座に所属していた。その経験からか、基尚少年のキャラクターも実に個性的に描かれている。
世田谷区立三宿小学校へ入学した基尚少年は、自分にとって居心地をよい学び舎を実現するためにはどうしたらいいのか頭をひねる。ひらめいたのが威張っている奴らを腕力で倒すことだった。喧嘩に明け暮れる基尚少年。やがて、
(この学校にはもう敵はいない、弱い者いじめする奴は僕が許さない!)
となる。しかし、世は戦時下。基尚少年の順風満帆ともいえる学校生活が5年生の夏、一変する。
都市部への爆撃が激化し、基尚少年は集団疎開で長野へ。出発の日、見送りに来た母親は今生の別れのように涙を流していた。だが、当の基尚少年はあっけらかんとしていた。
――僕たちは「親の心子知らず」で、遠足にでも行くようにはしゃいでいました。
そんな腕白な少年が疎開先で出会ったものとは……。
家族という心の支えのない中で慢性的なモノ不足、食糧不足に苛まれながらも、基尚少年の“冒険”が繰り広げられていく。それは大海原をゆく「ひょっこりひょうたん島」を彷彿とさせるものであった。
基尚少年の“冒険”は疎開先から東京の家族のもとへ戻ったあと、ようやく終わりを迎える。
八月十五日、戦争は終わりました。夏休みでもあり、さっそく多摩川で遊びました。里芋の葉を日除けに、キュウリをかじりながら川にぷかぷか浮かんでいると、上空をB29がもちろん爆撃もせず、操縦士の顔が見えるくらいの低空飛行で飛んでいきました。
(本当に戦争は終わったんだ!)
そのとき光景を描いた挿し絵。基尚少年のあどけない表情は新しく生まれ変わった日本を暗示するかようだ。

後半の「三宿小学校の学童疎開」は川原基尚本人が、少年期をともにした友人の遺した日記や当時の新聞記事をもとに自身の記憶を掘り起こしたノンフィクションである。「僕の戦争」と同じ主人公、同じ出来事をベースとしながらも作風はがらりと変わる。「僕の戦争」が饒舌であるのなら、「三宿小学校の学童疎開」は静穏というようなイメージになるのだが、対照的な文章表現の相乗効果で、読後はふたつの作品がひとつのものとして融和される。
疎開ものの作品といえば、藤子不二雄Ⓐの「少年時代」と奥田継夫の「ボクちゃんの戦場」が思い浮かぶ。両作とも作者の体験をもとにしていて、戦時下、親元を離れて疎開した子供たちの孤独や葛藤が描かれた。「少年時代」「ボクちゃんの戦場」は都会育ちの優等生が主人公だったが、「僕の戦争/三宿小学校の学童疎開」は都会育ちではあるが勉強が苦手な、今では絶滅してしまった“ガキ大将”が主人公ある。基尚少年は地元の人が畏敬する「御殿山」の官有林を我が物顔で駆け回る。飢えを凌ぐために信州特産のスガリ(蜂の子)、イナゴ、蚕のサナギ、鉄砲虫はもちろんコオロギ、アカトンボまで口にするようにもなった。実に逞しい。だが、それであるから疎開した仲間たちの悲しさや寂しさを敏感に察知できたのだろう。逞しかったから、この少年期の悲劇を生涯忘れなかったのだ。
――戦火が世界中から消え、世界中の人々が、最低限、健康を維持するに足る清潔な水と食糧を保障される。それから世界中で地球と全人類のためになる教育が、あまねく、正しく行われるようになれば――
「三宿小学校の学童疎開」の最後に紡がれた言葉は、疎開先の長野の雄々しく逞しい自然が基尚少年に伝授した社会が進むべき共生の道の極意のようにも思えてくる。

本書はもちろん児童・生徒に読んでもらいたい本だが、この国の舵取りをする大人たちがまず手にとるべきか。ウクライナ、ガザ、ベネズエラ、イラン、そしていずれ顕在化する台湾……深刻化する国際情勢だからこそ、思い出さなければならない過去があるのだから。


本書は版元絶版ですが、著者の同意を得て、著者が所有する蔵書を“ユニコの杜推奨図書”として扱わせていただくことになりました。

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