-
山荘 光太郎残影[版元絶版]
¥2,090
「道程」「智恵子抄」で知られる芸術家・高村光太郎。東京大空襲、花巻空襲で被災し、1945年10月よりの岩手県稗貫郡太田村山口(現・花巻市)に粗末な小屋を建てて移住した。それは戦争中に国威高揚のための詩をつくり、軍事政権のプロパガンダに加担した自責の念に駆られてのことであった。1951年11月、詩人である著者は子どもを連れて山口を訪れる。雑木林を背負ったように建つ山荘を目にした著者は「ああ、ここが光太郎の聖地か」と嘆息する。 高村光太郎との邂逅を綴った21篇の詩が、当時の光太郎の孤独と矜持が浮かび上がらせる。第33回晩翠賞受賞作。 著者 宮静枝 出版年月日 2010年1月3日 仕様 A5判・上製本(ハードカバー) 頁数 85頁(本文) 宮静枝●詩人。1910年5月27日、岩手県江刺市生まれ。1924年頃、石川啄木の短歌にひかれ、詩作を始める。1928年、県立岩谷堂高等女学校を卒業。元大宅壮一夫人だった従姉・和子の社会科学の影響を受ける。1931年、文学を志し上京。3年後に小学校教師・宮綱夫と結婚、三男二女をもうける。1945年5月24日、渋谷方面空襲で家が全焼。以後、盛岡に住み続ける。1987年、岩手県芸術選奨受賞。1991年、江刺市文化懇話会より文学顕彰を受ける。2006年12月25日、永眠。 *********************************************** 高村光太郎の孤独と矜持を綴った詩(ユニコの杜管理人) 私たちの世代(60代半ば)にとって「高村光太郎」は「智恵子抄」で知られる著名な作家ではありますが、今となっては歴史上の人物のような遠い存在になってしまったような気がしていました。 「智恵子抄」に集約されてしまった高村光太郎が智恵子と死別してからの日々について、私はなにも知りませんでした。高村光太郎の人物像、創作の源などについて考えたこともありません。しかし、そこにこそ本来なら日に当てるべきであり、特に芸術を志す者は知っておかなければならないことだったのです。本書を読んで高村光太郎を歴史年表の人物にしてしまうのは、まだ早すぎると思い直しました。 本書は戦後、岩手の山間で隠遁生活を送っていた高村光太郎との邂逅について詩人の宮静枝が綴ったものです。21篇の詩とあとがきの随想録が当時の高村光太郎の心の深層を掘り起こしたように思えました。 口絵では高村光太郎から著者へ送られた直筆の書簡も掲載され、文献資料としてのクオリティーの高さでも目をひくものがあります。 本書は第33回晩翠賞を受賞。当初、本書の帯には次のようなキャッチコピーが掲げられていました。 [晩翠賞選考委員のことばより] 光太郎の謎をはらんだ人間像のあるがままの姿をまことに自然に照らし出している。作者のことばからも、あいまいで表面的な飾りがぬぐい去られ、堅固でのびやかな詩語に化されている。このようなことばの存在感は、現代においてあらためてつかみ直すべきものであろう。 ■資料的にも貴重な証言である詩人との遭遇が鮮明に浮かび文字通り珠玉の一巻である。ユニークな詩集、たっぷりと内包されている時間の中からの清韻に深く感銘。(吉見正信氏) ■「山荘」は各詩篇が互いに響きあい共鳴し、その一つひとつの積み上げ構築されたものが、テーマ、思想、精神で貫一され、読者に迫る一大交響楽として完成されている。詩は技巧や形式よりも読者へ感動するメッセージを贈る作品でなければならない。(八重樫哲氏) 本書の魅力はこの帯のコピーが端的に表しています。そして著名な芸術家の人物像に迫るだけではなく時代背景を考察する付加価値も含めて存在意義は高く、今後も読み継がれていくべきものと考えています。 本書は版元絶版ですが、ご遺族の同意を得て、ご遺族が所有する蔵書を“ユニコの杜推奨図書”として扱わせていただくことになりました。ご遺族のご厚意に心から感謝を申し上げます。
MORE -
伝言ノート
¥1,100
芸術家・首藤教之によるエッセイ集。芸術、国家、社会、紀行といった大きなテーマから日常生活の出来事までを独自の視点で綴る。著者は1932年10月18日、福岡県福岡市で生まれ、多感な時期に福岡空襲を体験。そのときの心象が著者の芸術家としての基礎となり、本書においても平和、穏やかな日々への希求が読み取れる。著者の描いた作品、展示会風景もカラーページで掲載され保存版としても貴重。著者は本書の続編を計画し、創作活動に飽くなき情熱を燃やしていたが、2023年4月12日、永眠。 著者 首藤教之 出版年月日 2016年3月15日 仕様 A5判・フランス製本 頁数 168頁(本文) ************************************************** 炎を内包した静謐な芸術家からの伝言(ユニコの杜管理人) 首藤教之さんと初めてお会いしたのは2022年5月30日。ユニコ舎刊の戦争体験者証言集『境界BORDER』の取材のためでした。取材そのものは構成作家の安木由美子さんが綿密な下調べをして進めてくれました。取材の場を俯瞰できた私の首藤さんへの第一印象は「なんという穏やかな人なのだ」というものでした。『境界BORDER』シリーズの取材には常に同席しましたが、いつも戦争体験者の想いには圧倒されました。熱心に語るというのは当然ですが、静かに話をされていても突然涙を滲ませるという場面もあります。喜怒哀楽の起伏がとても“熱い”方々ばかりでした。 首藤さんは客観的に“戦争”を分析しながら自らの体験を理路整然と語られました。実に伝わりやすい言葉でしたが、そのときはまだ伝わりきれていませんでした。首藤さんの想いを形にした『境界BORDER』第2集の「描いた飛行機は平和な大空へ」を読み、作品展で首藤さんの作品を見て、そして『伝言ノート』をふたたび読む。どれも穏やかに表現されているのですが、その中に怒りにも似た炎が隠されていると感じました。 本書の「はじめに」で首藤さんは以下のように綴っています。 ――僕は1945年の終戦がもし秋となったならば、あの沖縄の中学生たちがそうであったように、粗末な爆薬の束を抱えてアメリカ軍の戦車に突進して死ぬということにならねばならなかった世代であって、その戦時体験と人生観、社会観は否応なしに強く結合している。そして、芸術文化観、全体とも切り離しては語れない関係を持っている。この本の中でも、体験や戦争を描いた作品のことについてもやはり多く語ることとなった。 1947年に創刊された日本美術会の機関紙「美術運動」のブログで首藤さんはこうも綴っています。 ――なぜ、あの戦争の時期の作家の作品はもとより、生き方の歴史に、物語に注目しなければならないか。それは、それらが、過ぎ去った過去の物語ではないからだ。そっくりの物語が、今、我々の周囲で進行し、新たな「戦前」の匂いが立ち込めようとしているからだ。 昨今のきな臭い世界情勢において、怒りの炎を内包した静謐なる芸術家・首藤教之が果たさねばならない役割はまだまだあったはずです。首藤さんは2023年4月12日に他界。死者はもう語れません。しかし、首藤さんが残した本が豊かな社会を創るための伝言を饒舌に語り続けていくのです。 本書はご遺族の同意を得て、“ユニコの杜推奨図書”として扱わせてもらうことになりました。ご遺族のご厚意に心から感謝を申し上げます。
MORE -
いのち燃え尽きる刻まで
¥4,000
一枚の写真が伝える戦争の真実! 2018年6月、著者の加藤かよ氏は九州への戦没者慰霊の旅で一枚の写真と出会います。子犬を抱いた少年兵を中心に微笑みをたたえた仲間たち――。万世飛行場にて特攻出撃を目前に控えた第七十二振武隊の姿でした。 彼らの笑顔に隠されたものとは……。加藤氏は見えざる手に導かれるように隊員一人ひとりの“想い”を調べ始めました。戦後70年という壁、遺族でもない加藤氏の調査は難航を極めました。入手した手紙、手記、エピソードなどで彼らの青春の軌跡をたどり、そして彼らの気持ちを代弁する詩を創作。6年を費やし、自費出版で世に送り出した渾身のノンフィクション。 著者 加藤かよ 出版年月日 2024年8月15日 仕様 A5判並製本 頁数 357頁(本文) ※本書は著者より直接発送されます。 *********************************************** 決死の少年兵たちの心情に肉迫(ユニコの杜管理人) 『いのち燃え尽きる刻まで』を読み終えたとき、最初に思ったのは「読了」とは言い難い複雑な思いでした。「了」とするまでにはまだまだ読み込まなければいけない。なんともいえない茫洋とした気持ちにも陥ってしまいました。 まず、この本はどんなジャンルに落ち着くのか……。もちろん著者の加藤かよさんが緻密な調査を重ねたものであるので、ノンフィクションであることは間違いないのですが、著者の視点での創作も取り入れられています。この“創作”が事実を捻じ曲げているのではなく、むしろ事実に重みを重ねさせたように感じられました。そのため爆弾を抱えて敵に突っ込むしかない運命を受け入れざるをえなかった少年たちの心が、死とは対極の生の閃光を放ったように思えたのです。 『いのち燃え尽きる刻まで』は加藤さんが入手された戦時中の手紙や資料を、そのまま使っているため難解なところはあります。加藤さんの意図は十分理解できます。原文のままだからこそ、読み取れる時代の空気というものがあるためです。しかし、その“難解さ”をがらりと変えたのが加藤さんの創作――詩でした。原文ではわかりにくかったところが詩によってやさしく変換されています。特に少年兵たちの覚悟がダイレクトに伝わってきます。こういう構成の本を私は初めて目にしました。それであるため「この本はどんなジャンルに落ち着くのか……」と戸惑ったわけです。 第七十二振武隊の一人ひとりの人生をよくこれだけ詳細に調べ上げたものです。これは特攻兵と加藤さんの執念なのか、それとも神の見えざる手による作為なのか。戦後80年が過ぎていく中で先の大戦のことが年表のワンセンテンスになりつつあります。本書は戦争当時の若者の心情、戦争そのももの実像に肉迫するもので、後世に引き継いでいくべき著書です。若者を中心にたくさんの人に読んでもらいたいです。
MORE