あけぼのいろの約束[版元絶版]
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歌人・真部照美の歌集三部作第三集。
著者は1941年6月9日、香川県高松市生まれ。瀬戸内の豊かな自然に抱かれて育った青春時代に安保闘争を目撃した少女は、社会情勢や人間世界の矛盾から目をそらすことなく、繊細な感性と清冽な言葉で想いを詠うようになる。2000年に第一歌集「心宿」を出版し、10年後に第二歌集「花埴」を発表。その10年後に第三歌集を、と考えていたであろう矢先、2023年に余命宣告を受ける。共産党員であった夫との暮らしとその死、子育て、親の介護といった生活を、透徹した眼で捉えたものから、自然、社会、戦争を広く長いスパンで鋭く見つめた歌まで、紡ぎ出されたことばは森羅万象を捉え「いのち」へと向かう。高松市の生家を終の棲家とし、短歌仲間や家族のサポートのもと、病を伴侶に第三歌集をまとめ上げ、2025年4月11日、永眠。
著者 真部照美
出版年月日 2025年1月30日
仕様 A5判・上製本(ハードカバー)
頁数 149頁(本文)
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いのちを詠い続けたまなざしの軌跡(草径庵 庵主・安木由美子)
真部照美さんにお目にかかったのは2018年11月、横浜に暮らす娘さんの招きで、能「沖の宮」を鑑賞するために、お住まいの高知県から上京されたときのことです。滞在期間中の訪問先のひとつとして私の営むブックカフェ草径庵へ立ち寄ってくれたのでした。短歌をかたわらに生きている人の澄んだ眼に草径庵はどう映ったのでしょう。娘さんと穏やかに語らっていたのは、偶然にも短歌や俳句関連の本が並ぶ棚の近くの席でした。
〈本とお茶ときどき手紙の草径庵〉母娘ふたりを陽のなかに置き
草径庵で過ごした時間を詠んだ歌が娘さんの手を経て届けられたのは、真部さんが闘病生活のなか、第三歌集「あけぼのいろの約束」を制作していた頃のことでした。お会いして言葉を交わしたのは一度だけですが、落ち着いた佇まいは私の心にしっとりと残りました。そして余命宣告を受けてからの日々の様子を娘さんから聞くたびに、秋の日の姿を思い出していました。
高校時代には文芸部に所属。第一歌集「心宿」に添えられた玉井清弘氏の跋文によれば「共産党宣言」を学校の図書室で見出したそうですから、ちょっぴり早熟で聡明な文学少女だったのでしょう。やがて共産党員だった夫と出会い、結婚。夫婦で印刷会社を営みながら、歌を詠み続け、「心宿」「水埴」「あけぼのいろの約束」の3冊の歌集を遺されました。
子育てや家業、介護に追われる日々に、ふと深呼吸をするように、ため息をつくように、風にそよぐ草花や子どもたちの笑顔、四国の海や山に憩いと力を得、それらを愛でることで自分を励まし、慰めてきた真部照美さんの姿が感じられます。それは安保闘争に衝撃を受けた青春時代の追憶にはじまり、終生もっとも大切にしていた「人のいのち」を詠い続けた作者自身のいのちの軌跡でもあります。
10年に一冊のペースで編まれてきた歌集の三作目「あけぼのいろの約束」は、5年あまり時間が追加され、ふくよかな色彩を帯びた作品となりました。
篠山(ささやま)のあけぼののつつじ見にゆかんあけぼのいろの約束をする
青春時代から取り組んできた短歌は、晩年の真部さんを包み、支え、いのちのはじまりへと送り返すような豊かさに満ちています。自身と世界、過去と未来、死と生……あらゆるものの境界が溶けてゆきます。安保闘争に大きな衝撃を受けたかつての少女は、余命宣告を受けた体でウクライナ戦争にも心を砕きました。
戦争は魔物の綱引きぼろぼろと人の命がこぼれ落ちゆく
最後となった第三歌集は、真部さんの心のしなやかさと強さが繊細に表れています。
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このたび、ご遺族の同意を得て、“ユニコの杜推奨図書”として三歌集を扱わせてもらうことになりました。ご厚意に心から感謝を申し上げます。
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